尼崎市立地域研究史料館

史料館について

平成6年度 この間の史料館の利用・公開事業について-夏休み期間の児童・生徒の利用、市史を読む会の実施- 『地域史研究』第24巻第3号(通巻第72号)掲載稿を一部修正

地域研究史料館では、平成4年度から「開かれた史料館」のモットーをかかげ、利用者にとって親しみやすく利用しやすい利用・公開事業を模索してきた。この結果、平成4年度には月平均42件(人数はカウントせず)であった史料館への相談利用件数が、平成5年度は77件100人、平成6年度の4月~12月には91件118人と増加してきている。
利用件数の増加につれて、利用者の幅も広がり、調査内容も多種多様となり、そのことがまたさまざまな成果を生み出してきている。来館利用を通じて、地域の歴史や史料の保存活用に対する理解者、協力者が徐々に増えてきており、こういった人々の協力や館との共同作業によって、新たな史料の発掘・収集や未調査分野・テーマに関する調査研究が進み、その成果がさらに史料館の利用・公開事業や『地域史研究』などの編さんに生かされる、こういった良い方向への循環が、少しずつ形成されつつある。『地域史研究』70号の「聞き取り・回想・体験」特集や、今回の特集も、こういった「開かれた史料館」事業の成果をもとに、さらに親しみやすい地域史の研究を模索していこうというものである。
ここでは、利用・公開事業の分野での、この間の取り組みと成果として、1、夏休み期間等の児童・生徒の利用、2、講座「『尼崎市史』を読む会」の実施、という二点を報告することとする。

1、夏休み期間等の児童・生徒の利用

取り組みを実施するにあたって

史料館では、夏休み期間中の児童・生徒の自由研究・地域学習への対応を、平成4年度から位置付けて実施している。平成5年度の取り組みについては、その結果と課題をまとめ、『地域史研究』第23巻第2号に報告を掲載した。その課題を再度列挙すると、次のようになる。

  1. 館所蔵の児童・生徒向け文献・史料が限られているため、調べるテーマが限定され画一化する傾向がある。
  2. 同じ理由により、子供よりも引率する保護者のほうが調査の主体になりがちである。
  3. 利用件数が増えるほど、限られた人数の職員が一件一件に時間をかけて、ていねいに応対することが困難となる。
  4. 以上のような課題を解決するため、児童・生徒が見ても理解できるような文献・史料の準備や館独自の児童・生徒向けガイダンス資料の作成、閲覧室のレイアウトの工夫や史料の掲示等によって、児童・生徒が主体となって調べられるような閲覧環境づくりが必要である。

これらの課題解決に向けて、平成5年8月から6年2月にかけて、職場の自己啓発グループの場で検討を行なった。

自己啓発グループでの検討

自己啓発グループでは、まず平成5年度の利用例から、児童・生徒が感心を持ちやすい分野・テーマや、本人の意欲的・積極的な調査に発展していった事例を抽出し、あるいは学校からどのようなテーマの自由研究課題が出されているのか調査し、これらをもとに次の作業を行なった。

  1. テーマ別課題シートの作成
    児童・生徒が関心を持ちやすく、なおかつ館蔵史料によって調査が可能なテーマを列挙し、各テーマごとに調査へと導入するためのガイダンス資料として、課題シートを検討・作成した。シートを作成したテーマは、次のとおりである。
    尼崎ゆかりの人物について調べてみよう
    史跡・文化財などを調べてみよう
    尼崎の伝説、昔話を調べてみよう
    尼崎の神社やお寺について調べてみよう
    尼崎の名物について調べてみよう
    尼崎の農業・漁業について調べてみよう
    尼崎の工業について調べてみよう
    尼崎の商業について調べてみよう
    地域のうつりかわりについて調べてみよう
    地名について調べてみよう
    むかしの衣食住について調べてみよう
    むかしの学校について調べてみよう
    古文書を見てみよう
    各シートのなかで、調査内容の例や調査方法をあげ、参考文献の例示も行なった。さらに、応対する職員用の内部資料として、要望や質問があった場合に提示する参考文献の一覧表も作成した。参考として、「むかしの学校について調べてみよう」のガイダンス・シートと職員用の参考文献一覧をかかげる。
  2. (課題シートの例、表紙)

    (内側ページ、見開き)

    他の課題シートも、ほぼ同様の形式で作成した。ただ、「古文書を見てみよう」のシートについては形式を変え、近世文書数点を選択して原本のコピーと簡単な内容解説を付し、さらに調査希望の申し出があった場合に提示するための解読文や解説のファイルも用意した。提示する文書は、村明細帳や宗門改帳など村の生活にかかわるものと、トピックス的なものとして干ばつ記録を選択した。グループで議論するなか、各課題シート作成にあたっては、特に次の点に注意した。
    ア 比較的来館利用の多い、小学校中学年の児童にも理解できる内容とする。
    イ 調査テーマの押しつけにならないよう、できるだけ多種類のシートを用意し、本人がそのなかからテーマを選択できるようにする。シートには、そのテーマに応じたさまざまな調査内容・項目を具体的に列挙し、本人の関心や意欲を引き出すような問題提起をこころがける。
    ウ 調査内容・項目に対応する調査方法や参考文献についても、テーマへのさまざまなアクセスの仕方の提起という形で例示するにとどめる。該当するテーマについての回答を示したり、調査の道筋を限定することにならないよう注意する。
    エ 史料館で文献を閲覧・コピーして終わりという調査ではなく、現地でのフィールド・ワークや聞き取り調査など、本人が足を踏み出し人と接する機会をつくるような調査方法をできるだけ盛り込む。
    オ 参考文献には、写真や地図といったビジュアルで具体的なイメージのわくものをできるだけ加え、利用頻度が高いと思われるものは掲示する。

  3. 史料の掲示・展示
    課題シートの提示や文献の閲覧提供にとどまらず、史料をよりビジュアルな形で提示するため掲示・展示を行なうこととした。掲示・展示の内容は課題シートと連動させ、またそれを見た児童・生徒の関心が引き出されるような提示の仕方をこころがけることとした。
    検討段階では、各課題シートに対応した展示物を、時期を区切って入れ替えることも計画したが、準備に時間と人手を要することなどから、実施段階では次の二種類の掲示・展示にとどまった。
    ア 地図(カラーコピー)の掲示
    明治後期から10年ないし20年間隔で、近年までの市域地図(地形図または市街地図)6枚を掲示した。さらに、文化財地図と大字小字地図も掲示した。
    特に、年代別の地図は、それらをならべて見比べることで、地図上のさまざまな事象の変化を児童・生徒自らが発見できるようにし、レファレンスの過程でも意識的に活用するようこころがけた。
    イ 古文書の展示と、同写真パネルの掲示
    課題シートに例示した古文書や、村絵図・水利絵図の写真パネルを掲示した。また、シートに例示した古文書の一部は、原本を展示した。
    なお、閲覧室には展示・掲示を行なうスペースがないため、閲覧室の隣にあり通常は史料整理にも利用している会議室を展示・掲示場所として利用した。史料館は全体に館内スペースが限られており、会議室にかわる史料整理スペースを確保することがむずかしかったので、史料整理作業は通常どおりこの部屋で実施し、なおかつ壁面を掲示・展示スペースとして開放することとした。
    これは、施設が狭いため窮余の策で問題点もあったが、逆に古文書整理の現場を一般来館者に見てもらう効果をねらった。さらに来館した児童・生徒が気軽に職員に尋ねられる、職員も展示物・掲示物を見る児童・生徒に対して自然な雰囲気で声をかけやすいというメリットもあった。
  4. 閲覧室のレイアウト、開架史料の工夫など
    閲覧室の机上には、作成したシートを3セット常備した。また、児童・生徒でも親しみやすいパンフレット・冊子類や一般参考書・図説などをそろえ、目につきやすい場所に配架するようにした。
    レファレンスの際の注意事項としては、「親ではなく子供に向かってはっきり話す」「来館者に対して積極的に声をかける、相手からも声をかけやすい雰囲気をこころがける」「本人が調べたい事柄をしっかり聞き出す」などの点を申し合わせた。

実施結果

前記のような準備をし、公共施設へのポスター掲示やマスコミ等を通じて広報を行なったうえで、夏休み期間の平成6年7月21日から8月31日まで、児童・生徒の利用に対する取り組みを位置付けて実施した。その結果、期間中の児童・生徒および保護者の来館利用人数は342人、館への相談件数226件であった。なお、前年度(平成5年度)実績は354人・200件であったので、ほぼ同程度の実績であったといえる。
利用面では、課題シートの設置と、地図の掲示が好評であった。多くの児童・生徒と保護者が課題シートを利用し、そのなかから選択して自由研究のテーマを決めていた。職員に尋ねず自分たちだけで調べるケースも多く、どのシートが選ばれる頻度が高かったのか必ずしも把握できていないが、寺社や伝説、地域のうつりかわりなどをテーマに選ぶケースが比較的多かったようである。
職員がレファレンスを行なう場合も、シートと地図の利用が有効であった。何をテーマに選ぶかを相談された場合は、いくつかのシートを提示して選択してもらったり、あるいは年代別の地図を見せて、何に興味・関心があるか尋ねたりしながら、押しつけにならないようテーマを設定していくことができた。また、利用者がシートからテーマを選択したうえでレファレンスを求めてきた場合は、あらかじめ準備しておいた資料によって所定の参考文献をすみやかに提示し、説明の要点も準備されているので、効率的でしかも比較的均質なレファレンス・サービスを実施することができたと考えている。
参考文献・資料のなかでは、やはり地図や写真といったビジュアルなものが有効であった。各年代の地図を見て、自分にとって身近な場所がかつてどんな様子で、どう変化してきたのかを見て取ることは、大人にとっても子供にとっても興味深いことと言えそうである。地図のコピーや、市史の付図(明治42年地形図、大正9年市街地図、大字小字地図)の購入件数も多かった。
一方、古文書類の活用については、展示・掲示を見て興味を示す児童・生徒の例はあったものの、残念ながら実際にそれをテーマに選んで調べるまでには至らなかった。

まとめと今後の課題

このように、課題シートや掲示物を利用した平成6年度の夏休み期間の取り組みは、当初の目的に照らしてまずまず成功だったと言える。
今後の課題としては、次の点があげられる。

  1. シートや掲示・展示の種類をさらに増やして、テーマ選択の幅を広げること。さらに内容も充実させて、スムーズかつ中身の濃い調査へと導入できるよう、シートを改善する。
    種類を増やすにあたっては、シートにあげたテーマ以外で、実際に児童・生徒が調査していた内容を取り入れていく予定である。具体的には、「市の広報や新聞を使って、自分が生まれた時の様子を調べてみよう」「尼崎ゆかりの文学・芸術作品について調べてみよう」「尼崎と戦争のかかわりについて調べてみよう」などのテーマが考えられる。
  2. 課題シートを準備したことで、レファレンスがスムーズとなり、職員の負担も一部軽減された反面、シートを見て独力で調べるケースが多くなったため、何を調べているのか、つかみにくくなった面もあった。積極的に声をかけることを事前に申し合わせていたが、さらに徹底する必要がある。
  3. さきにもふれたように、史料館としては、館で文献を閲覧・コピーして終わりというのではなく、フィールド・ワークや聞き取りなどに発展する調査をなるべく提起するようこころがけた。しかしながら、そういった方向に発展した事例は、かならずしも多くなかったのではないかと思われる。どちらかというと、子供も保護者も手っ取り早く宿題の答えを求める傾向があり、古文書利用のような面倒でむずかしそうなテーマは敬遠されがちであった。
    こういった点の改善のためには、学校・教員との連携が今後の課題となるであろう。当館の取り組みを知らせて、学校側にも児童に提起する選択肢に史料館の利用を加えてもらい、古文書にふれることや聞き取りなどに共同して取り組むことができれば、調査の内容もより充実していくのではないだろうか。

今後、これらの課題解決に取り組み、平成7年度はさらに充実した夏休みの取り組みを実現し、日常的な学校教育との連携をも深めていきたいと考えている。この間の学習指導要領の改訂のなかでは、子供たちがみずから考える力を養っていくことが重視されており、史料館を利用するような課題学習の機会も増えていくことと思われる。これらを実践するなかでは、あらたな問題点もあきらかとなってくるであろう。
一例をあげると、尼崎市内のいくつかの小学校では、平成6年の秋に「地域の伝統産業・地場産業を調べよう」という課題学習テーマが出された。この結果、多くの小学生グループが、市役所市民相談課、市立図書館、中小企業センター内の商業課・工業課、史料館などに調査・相談に訪れた。
小学生グループが来館する時期が一時期に集中したため、これへの対応は史料館にとってかなりの負担となった。それ以上に問題であったのは、尼崎の伝統産業と言えるもので、現在まで続いており参考資料が提示できるものの種類がほとんど二つに限られていることであった。館では、樽菰と醤油(生揚醤油)の二種類の資料を準備し、子供たちに提示するようにしたが、結果としてどのグループも同じようなレポートになってしまったのではないかと思われる。しかも、子供たちは学校が終わってから市役所などに相談に行き、そこで教えられて史料館に来館する場合が多いので、来館時間はしばしば閉館(午後5時15分)間際となる。十分な応対時間がとれないまま、こちらから提示した資料をあわただしくコピーして終わることもしばしばだった。
史料館以外の部局は、一層対応に苦慮したようである。連日小学生がつめかけた市民相談課から資料提供の要請があったので、当館で提示している二種類の資料をコピーして提供した。しかしながら、皆が同じ場所に調査に行って、同じ内容のコピーをもらってくるのでは、自由研究の意味が半減してしまうのではあるまいか。
課題学習を取り入れていく場合、多様で実りのある成果を生み出していくためには、調査を受け入れる側の条件を整えていくことや、そのことまで考慮に入れた課題や時期の設定も必要であろう。こういった点について、今後学校サイドとも意見交換を行ない、史料館を学校教育により一層活用してもらうための条件整備を行なっていきたいと考えている。

2、「『尼崎市史』を読む会」の実施

「『尼崎市史』を読む会」の実施の経緯

史料館では開館当初の昭和50年ころ、一時期古文書解読などの講座を実施していたが、それ以来市民向けの講座を設けていなかった。なんらかの形で、史料館としても市民講座を持つことが望ましいと考えていたところ、平成6年度にはいって、館の事業への協力者である園田学園女子短大・田辺眞人先生から『尼崎市史』読書会の提案をいただいた。市史の読書会であれば実施は比較的容易であるし、ちょうど平成6年8月には市史本編の頒布を再開するので、購読者のなかにも参加希望が多いことと予想された。これらの点を考慮した結果、「『尼崎市史』を読む会」として10月から実施することとした。3週に一度、木曜日の午後6時から7時30分まで、市立中央図書館の協力により同館セミナー室で開催することとなった。
市報などを通じて参加者を募ったのち、10月20日に第1回目の読む会を開催した。この日までに40数名の参加申し込みがあり、当日の出席者は40名であった。

現在までの実施結果

10月20日の第1回以降、翌平成7年1月12日までに計4回の読む会を実施し、A4判4頁のニュースも第3号まで発行した。

第1回
10月20日(木曜日) 参加者40名
オリエンテーション 読む会の進め方の説明
講話 田辺眞人先生(園田学園女子短期大学)
「読む会をはじめるにあたって」
生澤英太郎先生(甲子園短期大学)
「市史編集開始当時の思い出」
第2回
11月10日(木曜日) 参加者35名
講義 『尼崎市史』の特徴
第1巻「はじめに」、第1章「尼崎平野の形成」
第3回
12月1日(木曜日) 参加者39名
講義 第2章第1節「縄文式文化時代の尼崎」
第2節「弥生式文化時代の尼崎」
講話 橋爪康至・尼崎市立田能資料館長
(最近の考古学の成果など)
第4回
1月12日(木曜日) 参加者31名
講義 第2章第3節「古墳時代の尼崎」

読む会の実施にあたって特に留意したのは、出席者の能動的参加を引き出すよう工夫することであった。具体的には、次の要領で実施することとした。

  1. 市史の通史編である第1巻~第3巻と『尼崎の戦後史』を、第1巻第1章から順に読み進める。
  2. 毎回、該当部分について史料館職員またはゲスト・スピーカーが講義を行なう。講義は市史の記述に沿った解説を中心とするが、その記述分野に関する最近の研究成果やトピックス、関連事項的な話題などもできるだけ盛り込む。
  3. 講義ののち、質問票によって参加者の質問を受け付ける。質問票には、その回の講義内容に関すること以外の史料館への質問事項や、読む会の進め方に対する意見・要望を書く欄を設け、参加者が自由に質問・意見を出せるようにする。
  4. 質問票によって出された質問・感想・意見と、それへの回答を「『尼崎市史』を読む会ニュース」としてまとめ、次の会で配布し、さらに口頭でも説明を加える。毎回、冒頭の30分程度をこの説明と、追加の質疑応答の時間にあてる。
  5. 読む会での議論をもとにした、参加者による分科会・研究会づくりなど、読む会に発展性を持たせる。

この種の講座では、講義ののちすぐに口頭での質疑応答の時間を設けるのが普通であろう。しかしながら、読む会での講義内容は市史全般にわたっており、その場で即答できない質問が多いと予想される。その点、質問票形式とすれば、次回までに調べて確実な回答を返すことができる。読む会の場で手をあげて質問するより抵抗感なく質問できるのではないかと思われるし、特定の参加者ばかりが質問して時間をとってしまうということも防げる。講義に関連する事項以外でも自由に質問できるという設定も、質問票形式ならではであろう。
この質問票による質問や感想・意見と、これに対する回答をニュースに掲載することで、質疑応答の内容を確実に記録として参加者の手元に残すことができる。さらには、ニュースを通して、誰がどんな質問や意見、感想を持っているのか、他の参加者も知ることができる(ただし本人希望の場合は、ニュースには匿名またはペンネームで掲載するようにしている)。つまり、質問票と、それをまとめたニュースが、参加者の能動的参加の場・メディアとなっていくことを期待しているわけである。
実施している講義の形式は、準備した資料にもとづいて説明を加え、必要に応じて板書したり地図を利用したりといったオーソドックスなものである。内容的には、具体的でわかりやすい説明をこころがけることと、市史通史編の刊行年が昭和41~45年と古いので、その後の研究成果や最近の話題などを、講義やニュースにできるだけ盛り込むようにしている。
参加者の反応はというと、講義とニュースの両方について、現在のところおおむね好評のようである。ゲスト・スピーカーによる講話も人気が高く、田能資料館・橋爪館長の講話の感想のなかでは、田能遺跡と資料館の現地見学を希望する声も多かった。
読む会の運営面では、質問票を通して寄せられた会の進め方に対する要望・意見を、可能な範囲で取り入れて改善するようにしている。具体的な改善事項としては、休憩時間の設定と参加者の名札着用(参加者相互に話しやすくするため)、ニュースにもどづく説明に加えての口頭での質疑応答時間の設定などである。なお第3回から、質疑応答の司会進行は田辺眞人先生にお願いし、できるだけ参加者の発言を引き出すようにしていただいている。

参加者の質問・意見・感想から

次に、質問票を通して寄せられた、参加者の声を紹介してみることとしよう。まず、参加者は、どういった動機で読む会に参加し、読む会に何を求めているのだろうか。

  • N.Sさん

    尼崎市に育って結婚を機に枚方市に住み、また8年前尼崎市に転宅して参りましたが、ほとんど市史を知りませんので、この度はよい機会なので少し学んでみたく、参加させていただきました。

  • M.Kさん

    尼崎に永年住んでいても、尼崎の歴史はよく知りません。市史は今までたまにしか見ませんでした。このような企画はすばらしいと思います。最後まで続けられるよう頑張りたいと思います。

  • M.Iさん

    子どもの夏休みの宿題のおつき合いで、近くの神社や史跡を2、3か所たずねました。その時とてもおもしろく、もう少し詳しく尼崎のことを知りたいものと思っておりました。市報でこの会のことを知り参加いたしました。

  • Y.Mさん

    私は尼崎に生まれ、育ち、余生も尼崎で、最後は寺町の甘露寺で灰になります。尼崎の歴史を知ることは、私の義務だと思っております。

  • H.Fさん

    尼崎郷土史研究会に入っております。自分の住む町の歴史、あるいは周辺を知り、過去がどのように変化して現在に至ったか、これからどう変化するのだろうかということを考えてみたいと思っています。自分の存在が、それらと無関係ではあり得ないはずですから。

  • K.Mさん

    宝塚に住んでいます。尼崎は戦争中の学徒動員の時に居住し、戦後いろいろな機会に関係しました。近代・現代の歴史に興味をもち、また宝塚の庶民の歴史を調べていましたが、やはり阪神間は一体ですのでこういう機会を望んでいました。

このように、参加者の尼崎へのかかわり方や関心の持ち方はさまざまである。自分が住むことになった地域のことを素朴に知りたい、あるいはふとしたきっかけで地域のことに関心を持ち始めたという人もいれば、郷土への深い愛着とこだわりを持ち続けていたり、地域の歴史と自分自身の歴史や生き方を深く関連づけて考えたいというのが参加の動機のケースもある。こういった、多様な動機の参加者の、さまざまな関心をそれぞれ尊重し、すべての参加者の要望にこたえうるような講座内容としていきたいと考えている。
次に、第2回の地質学と、第3回の縄文・弥生時代に関する講義・講話への質問や感想のいくつかを紹介してみることとしよう。

  • K.Oさん

    ボーリングの現場で地質を教えてもらったことがあるが、神崎川近くの西川あたりは洪水のたび土砂が流れてきたのがよくわかった。
    尼崎の沖積層から神戸層群まで深さ何kmか教えてほしい。地震があれば泥が吹き上るのはどの層ですか。

  • N.Uさん

    大阪湾周辺は断層が多く走っていますが、地震が発生したときはどうなるのでしょうか。
    六甲山の隆起の年代はどうしてわかるのですか。

  • T.Aさん

    縄文時代と弥生時代の文化の違いは推察できますが、縄文人と弥生人はどう区別あるいは連続するのでしょうか。

  • H.Kさん

    尼崎市史ではあるが、大阪湾・海岸線といった阪神間の総論部分から、各論的に尼崎を見ることができる。武庫川と猪名川・神崎川の文化の比較では、猪名川流域に早く人が住みだすが、武庫川流域はいつ頃からなのか。私たちが住んでいる町のルーツを、川から考えるのもおもしろいと思った。
    田能遺跡はまだ訪れていないが、一度動く「市史を読む会」として見学会を企画していただいたら幸いと思っております。

  • N.Sさん

    市史を読んでいても、地理的になかなか頭に浮かばなかったのですが、今回いただいた「尼崎市域遺跡分布図」は一見して頭に入りました。とっても気に入りましたので大切に持っていたいし、この地図で遠い大昔にも夢が飛んでいくようです。

研究書や概説書を通じて、歴史研究一般にふれることはできても、それを身近な地域にあてはめた場合に具体的にどうなるのか、そこから発する素朴な疑問への答え見いだすことは、市民にとって必ずしも容易ではないのではないだろうか。ここで紹介したような質問や感想を大切にし、回答の道筋を示していくことは、市民の地域へのより深い関心や関わり方をはぐくむきっかけになるのではないかと考えている。
こういった点は、質問を講義内容に関連したことがらに限定せず、歴史に関することであれば何でも自由にたずねられる欄を質問票に設けていることで、よりいっそう促進されるであろう。たとえば、次のような質問も出されている。

  • Y.Oさん

    尼崎の交通史を勉強したいので、適当な本を紹介してほしい。

  • M.Hさん

    上水道が施工される前に、本興寺霊水を築地地区その他に販売していた水屋について調べたい(自分の先祖も販売していたので)。資料があればご教示いただきたい。

いずれも、読む会ニュース誌上で参考文献等を紹介した。このことがきっかけで、史料館に来館して調査されるケースも出てきている。

今後の方向性と課題

このように、順調なすべりだしを見せた市史を読む会であったが、平成7年1月17日の阪神・淡路大震災によって、長期中断を余儀なくされている。市全体としても、災害復旧・被災対応に全力をあげている状況であり、読む会のみならず公民館講座等も休止している。現在のところ、再開は早くとも5月の連休明けとなる。
再開後も、当面は従来どおりの進め方を踏襲していく予定である。方向性としては、当初のねらいに沿って、より一層参加者の能動的参加を引き出すよう努めていきたい。そのため、要望のあった田能遺跡・資料館見学会の実施など、フィールド・ワークや分科会、参加者自身による研究発表なども考えていきたい。
さらに、現在は全面的に史料館サイドで会の運営を行なっているが、参加者自身による運営ということもひとつの方法ではないかと考えている。ボランティアによる読む会ニュース編集なども、将来的には期待したいところである。