尼崎市立地域研究史料館

史料館について

平成7年度地域研究史料館事業報告『地域史研究』第25巻第3号(通巻第75号)掲載稿を一部修正

平成7年度は、阪神・淡路大震災からの復旧と復興の第一年度として、尼崎市にとっても、地域研究史料館にとっても、多くの困難に直面した年でした。そうしたなかで、ボランティアにも助けられながら、震災による被災史料をはじめとする、多くの貴重な史料を収集・整理・公開することができ、さらに「震災から一年をふりかえる展」の開催や、年来の懸案事項であった『尼崎地域史事典』の発行といった成果をあげることができました。ここでは、これら7年度事業の概要を報告します。

史料の収集・整理・公開

史料館が、震災発生後、地元NGO救援連絡会議文化情報部、阪神大震災対策歴史学会連絡会(歴史資料保全情報ネットワーク、略称史料ネット)、阪神・淡路大震災被災文化財等救援委員会といった各種救援団体と協力しながら、市内の被災家屋などに収蔵されている古文書・近現代文書類の調査と保全にあたったことは、『地域史研究』第25巻第1号でくわしく紹介しました。
同号を発行した平成7年9月以降も、これら被災史料の調査と救出を継続しました。震災後、市内旧家などに対して全般的な被災状況調査を実施しましたが、8年1月にはあらためて、史料館が確認している市内史料所蔵家に対する保管状況調査を実施しました。二九家へのアンケート送付に対して一四家から回答があり、うち三家は所蔵者からの要請により史料を引き取りました。この調査は、震災後の経験などを踏まえて、大国正美氏(神戸深江生活文化史料館)が全史料協近畿部会近世古文書研究会などで提起した、自治体による日常的な民間所在史料の状況把握の呼びかけを具体化したものです。今後も、年一度のペースで状況把握のための調査を継続実施していくことを検討しています。
これら被災史料の調査・引き取りに加えて、一般史料の収集についても引き続き取り組んだ結果、平成7年度末現在の史料館収蔵史料の概要は以下のとおりとなっています。

地域研究史料館収蔵史料(平成8年3月末現在)

収蔵史料の整理・公開は従来から滞貨しているうえ、新たに大量の被災史料が加わりました。このため、被災史料受け入れ分を5か年計画で整理・公開すべく臨時職員を確保するなど、整理スタッフを新たに整備し、8年度から史料整理計画を立て直して滞貨解消に取り組む予定です。
なお引き取った被災史料の一部について、史料ネットが救出した神戸・明石市域の史料とともに、平成7年6月28日から8年1月24日までの間、和歌山県立文書館でくん蒸と一時保管のご協力をいただきました。これは文化財等救援委員会の仲介によります。また史料の和歌山への搬送については、美術等金物製造販売の中村多喜彌商店よりボランティア協力を得ました。震災後の施設復旧や被災史料救出・保全にご協力いただいた各団体・個人には、あらためてお礼を申し上げます。

「阪神・淡路大震災から一年をふりかえる展」の開催

震災から一年を経過した平成8年2月から3月にかけて「阪神・淡路大震災から一年をふりかえる展」を開催し、史料館で救出・保全した被災史料を広く市民に紹介しました。
この展示は、被災史料ならびにその救出・保全活動の紹介に加えて、震災後の市内の様子や史料館の被害・復旧状況などのパネルを作成し、2月5日~9日に市役所1階ロビーで、2月14日~28日には市立中央図書館ロビーで開催しました。別に縮小版のパネルを作成し、被災史料の現物とあわせて、史料館内での小展示を2月10日~3月31日に実施しました。
また2月10日から、史料館閲覧室内に震災関係の図書・雑誌などを集めた震災文庫を開設しました。同文庫は当分の間開架に設置し、引き続き関係文献・資料類の収集・公開に努めていく予定です。これまでに収集した関係資料等については、『地域史研究』第25巻第1号および『地域史研究』第25巻第3号収録の一覧リストをご参照ください。
なお、展示場には感想文用紙を用意し、希望者に記入してもらいました。寄せられた感想文には、次のようなものがありましたので紹介します。

(被災し、堺市に仮住まいの方) 震災に依りなくした家と共に多くの書物を失い、この中には尼崎の地史や昭和大正初期の得難いものが多くありました。家屋解体の時に、必ず救出できるものと信じていたものが、一瞬にくずされ今はもう取りかえしのつかぬ無念さで一杯です。時を急いでの解体作業の方法に残念でなりません。文化が私達には大切な宝です。

『尼崎地域史事典』の発行

昭和63年に完結した『尼崎市史』全13巻・別冊1に続いて、史料館では『尼崎地域史事典』の編さんに取り組んできました。尼崎地域の歴史について調べるうえで、よりわかりやすく便利な参考文献をめざしたものです。
時代・分野を網羅した、この種の事典形式の自治体史は全国的にも例がなく、項目・執筆者の選定、調査、多人数の執筆者が執筆した原稿の編集・調整などが予想以上に難航し、当初計画を大きく延長する結果となりました。平成6年度中に刊行の予定でしたが、震災の影響により刊行遅延を余儀なくされ、平成8年3月にようやく刊行することができました。
本事典には、地質形成時代ならびに原始・古代から近代・現代にいたるまでの、尼崎地域の歴史に関する事項・事件・人名・地名など1,346項目を採録し、各分野の専門研究者ら93人および史料館職員が執筆した解説を50音順に掲載しています。各項目に参考文献と執筆者名を付しているほか、関連する事項を参照項目として表示しています。また、市内各大字の歴史的変遷や、主要な人物、寺院・神社、企業・工場、公共施設や行政施策など、市史の通史的叙述のなかでは必ずしも十分解説されていない項目や、近年発掘された遺跡をはじめ、市史刊行後の調査・研究の成果も盛り込まれています。さらには、遺跡・文化財地図、近世所領配置図や荘園地図、歴代藩主・市町村長一覧、年表などからなる便覧も収録しています。本事典が、尼崎に関心を持つ市内外の多くの方々に活用され、それによって尼崎地域に対する一層の理解と認識が育まれることを期待します。
A5判、492頁、活版、上製本箱入り。監修は八木哲浩氏、山崎隆三氏。尼崎市立地域研究史料館編集。平成8年3月31日、尼崎市発行。河北印刷株式会社印刷。頒価3,000円。入手方法については、刊行物のページをご参照ください。

『尼崎市史』を読む会

平成6年10月から開始し、7年1月12日に第4回まで実施していた「『尼崎市史』を読む会」は、史料館ならびに開催場所の市立中央図書館が震災被害からの復旧に時間を要したこと、さらに両施設とも職員が避難所勤務等の災害対策業務に応援配置されたことなどにより、休止を余儀なくされましたが、震災から約5か月後の6月15日、ようやく再開することができました。
再開第1回目は、読む会発起人の園田学園女子大学短期大学部助教授・田辺眞人氏による特別講義「記録された近畿の大地震から-歴史を学ぶことの意味を考える-」をいただきました。参加者33名。以後、毎月1回、第3木曜日の午後6時から開催し、毎回30名前後の参加者を得ています。史料館職員による解説のほか、生澤英太郎氏(甲子園短大講師)、田中文英氏(大阪女子大学教授、史料館専門委員)、田中勇氏(中央公民館潮江分館館長)などのゲストスピーカーも迎えて、市史第1巻第4章第2節「南北朝・室町時代の尼崎」の前半までを終了しました。
平成7年8月には、会の運営に参加者の声を活かし、会の活性化をはかるため、会員6人からなる世話人会を発足し、10月、12月、2月と4回にわたり協議の場を持ちました。ここでの意見にしたがい、読む会1回あたりの読み進める頁数を少なくして進行速度を遅くし、さらに史料館職員による解説の回とゲストスピーカーによるその時代のトピックス的な講話の回をわける、解説にあたっては尼崎地域に即した説明の前提として、その時代に関する全般的背景の説明を加える、市史刊行後の研究の進展状況や議論のわかれる点などをできるだけ盛り込む等々、細かな点にいたるまで種々意見をいただき、改善に努めています。しかしながら、特に内容にかかわる点については、講師を務める史料館職員の知識・力量の問題もあって、世話人会の要望に十分こたえているとは言いがたいのが現状です。
また、平成7年度中に番外編・見学会各2回を実施しました。

第1回番外編
平成7年8月3日 於中央図書館 参加者25名
「尼崎と戦争・空襲・戦災」 史料館・辻川
「オーストラリア・カウラ収容所での日本人捕虜反乱事件について」 田辺眞人氏
第2回番外編
平成8年2月10日 於総合文化センター 参加者40名
「聞き取りのすすめ」 小山仁示氏(関西大学文学部教授)の講演ほか
第1回見学会
平成7年9月30日 於田能資料館 参加者21名
同館・橋爪館長からの講話と、展示等の見学
第2回見学会
平成7年11月18日 参加者31名
「中世長洲荘から近世尼崎を歩く」長洲~金楽寺~大物~城内~寺町
世話人・松藤政治氏の解説による見学
大覚寺 副住職・岡本元興氏による解説と境内見学

これらの企画についても、世話人会発足後はその意見にしたがって立案・運営しています。特に見学会は、世話人の松藤政治氏に、企画立案から準備・実施にいたるまでほぼ全面的に担当していただいています。なお、この読む会は、外部講師、他部局の市職員によるゲストスピーカー、世話人など、運営にあたる協力者は史料館職員を除いてすべて無償のボランティアです。

夏休み期間の児童・生徒の利用

昨年度に引き続き、夏休み期間中の児童・生徒による自由研究・地域学習等への対応を位置付けて実施しました。従来から活用している課題別シートや持ち帰り冊子・資料類の準備、年代別地図や古文書パネルの掲示に加えて、終戦50周年ということで、戦争に関する課題シートおよび資料・写真等の小展示を用意しました(従来の取り組みについては『地域史研究』第24巻第3号参照)。
実施結果は、夏休み期間中の児童・生徒および保護者の来館人数411人(1日平均12人)、相談業務件数165件・人数266人(同5件・8人)でした。来館人数は平成6年度の342人を大きく上回りましたが、相談業務件数は6年度の226件からむしろ減少しており、シート・展示などを見て、職員に相談せず独力で調べるケースが相対的に多くみられました。市内の杭瀬小学校が創立70周年記念誌づくりに全校あげて取り組み、この調査のために同校の児童が多く来館したこと、また市内の一部の小学校児童に対して史料館が見学先として紹介されたことなどにより、来館者が増加した模様です。
7年度の取り組みの教訓としては、課題シートを見て自分たちで調べる児童・生徒も増えてきたとは言え、やはりどう調べたらよいのか考えあぐねている例も少なくないので、できるだけ職員の側から声をかけて相談に乗るようにしていく必要があります。また、今年度から教育委員会の指導第一課を通じて、市内小・中学校に史料館の夏休み利用をすすめるポスターと、利用の手引きを配布したことが効果的でした。今後も、学校間のコンピューター通信ネットの活用など、教育委員会・学校との連携の強化が必要でしょう。

ネオ・フォークロアの検討

尼崎市の外郭団体・あまがさき未来協会を中心に、史料館も協力して平成5年度から進められてきた「尼崎のネオ・フォークロアに関する研究会」が、平成7年度をもって事業を終了しました。この研究会は、同協会まちづくり研究所研究委員で京都大学名誉教授の米山俊直氏の提唱による、聞き取りを軸とした新しい文化運動「ネオ・フォークロア」の検討・具体化を目的として設置されたもので、米山氏を座長に、委嘱を受けた専門研究員と市職員によって構成されました。その検討成果は、『ネオ・フォークロア入門 あまがさき発「街かど学」のすすめ』として、平成8年8月に神戸新聞総合出版センターから発行されました(あまがさき未来協会編、209頁、定価1,300円)。

震災関連ボランティア団体との連携協力

震災後、被災史料の救出・保全などの面で協力を得た各種ボランティア団体とも、引き続き連携協力しながら震災関連の事業に取り組んでいます。このうち、歴史学会の若手研究者を中心とする史料ネットは、被災史料・文化財の救出・保全に加えて、被災地の歴史と文化を考える連続市民講座やシンポジウムなどの企画に取り組んでいます。また、震災に関する資料の収集保存と記録編さん(兵庫県の外郭団体である21世紀ひょうご創造協会と連携)、石造文化財の調査と保全、埋蔵文化財問題といった各種課題に取り組むほか、宝塚の古文書を読む会の開催、西宮市門戸地区の史料展への協力など、被災地各地で市民とともに地域の歴史や史料を掘り起こす活動を続けています。
こういった取り組みの一環として、尼崎では市民グループや史料館とも協力しながら、「尼崎戦後史聞き取り研究会」が組織されました。その取り組み内容については、『地域史研究』第25巻第3号掲載の佐賀朝・森下徹両氏によるレポートをご参照ください。なお史料ネットは、ここに紹介した各種プロジェクトを継続して進め、さらにネットワークを被災地から拡大発展し、歴史学と社会をめぐるより普遍的な課題に取り組むべく、平成8年度からは新たに「歴史資料ネットワーク」として、再スタートする予定です。
また、NGO文化情報部が改組した震災記録情報センターと、被災地および周辺の図書館・史料保存機関職員有志による「震災記録を残すライブラリアン・ネットワーク」が、震災関連資料の収集に向けた情報交換や実務研修会の開催などの活動を続けています。平成8年1月には、被災地各図書館における関連資料の収集・保存状況アンケート調査結果などを収録した『阪神・淡路大震災記録資料を未来へ伝える』と題する資料集を発行しました。史料館としても、同ネットワークなどと連携しながら、震災関係資料・文献等の収集・保存に努めました。