尼崎市立地域研究史料館

史料館について

平成8年度地域研究史料館事業報告『地域史研究』第26巻第3号(通巻第78号)掲載稿を一部修正

尼崎市制80周年を迎えた平成8年度、本市はさまざまな記念企画を実施しました。史料館でも、この市制80周年を期にスタートする記念振興事業として、20年計画の新「尼崎市史」編集事業に着手し、シンポジウムを開催したことは『地域史研究』第26巻第2号でも紹介したとおりです。
今後の史料館にとっては、この新たにはじまった新市史事業と従来からの史料館事業を、いかに効果的に関連させながら進めていくかが鍵になります。その第一年度目としての平成8年度(平成8年4月~平成9年3月)の史料館の事業結果を報告します。

史料の収集・整理・公開

平成8年度は、古文書・近現代文書類約2,000点、地方史誌等の刊行物約1,700冊をはじめとして、7年度に引き続き多くの史料を収集しました。古文書類のうちおもなものとしては、震災被災家屋の建て替えにともない新たに収集した塚口・岸岡茂氏文書(約500点)と水堂・松井重輔氏文書(約150点)、新市史の農業史聞き取り調査にともない収集した森松小太郎氏文書(約30点)、古書業者から購入した常吉および下食満の村方文書などがあります。ビラ・チラシ、ニュースや報告書類など、震災関係史料の収集も引き続き行なっています。整理と受入手続きの終了したものから順次公開するとともに、『地域史研究』の新着史料紹介コーナーでも紹介していく予定です。
震災以降、被災家屋から2万点近い史料を引き取ったこともあって、平成8年度からは史料整理のスタッフを新たに確保してこれら史料の整理に努めていますが、滞りがちなのが実情です。平成8年度末現在の史料収蔵状況については以下のページをご覧ください。

地域研究史料館収蔵史料(平成9年3月末現在)

また、これら史料の利用相談(質問、調査へのレファレンス・サービス等)および、利用者による史料複写実績は次のとおりです。

平成8年度利用相談
合計 来館 電話 その他
1,022件 716件 288件 18件
1,291人 985人 288人 18人
平成8年度史料複写
件数 枚数
354件 13,694枚

新「尼崎市史」編集事業の開始

地域研究史料館では、尼崎市制80周年記念振興事業として、平成8年度から新「尼崎市史」編集事業に着手しました。これは、既刊『尼崎市史』の成果のうえにたって、聞き取り調査やフィールドワークといった市民参加型の手法を取り入れ、生活文化史などを中心とした新たな市史をつくっていこうというものです。また同時に、既刊市史のあとを引き継いで、本格的な現代通史編を編さんすることも意図しています。
親しみやすく、同時に編さんの取り組みや市史の活用が現在と未来の地域を考えていく基礎となるような、新しいスタイルの自治体史づくりをめざしています。市制90周年の平成18年度から刊行を開始し、100周年の28年度に完結予定という長期計画で、その概要は別ページ(PDF)に示しました。

新「尼崎市史」の刊行計画 [PDF:94KB]

平成8年度は、20年計画の第1年度として、まず全体計画の検討に着手しました。検討には、地域研究史料館専門委員および新「尼崎市史」アドバイザーの計5人が、史料館とともにあたっています。検討メンバーおよび実施した調査等の実績は次のとおりです。今後は、平成9年度に全体計画を策定し、平成10年度から本格的な調査・編さんを開始していく予定です。

地域研究史料館専門委員
山崎隆三 大阪市立大学名誉教授、名城大学名誉教授、日本近世・近代史
田中文英 大阪女子大学教授、日本中世史
横田冬彦 京都橘女子大学教授、日本近世史

新「尼崎市史」アドバイザー
高岡裕之 相愛大学・花園大学講師、日本現代史
岩城卓二 大阪教育大学専任講師、日本近世史・生活文化史

専門委員・アドバイザー会議の開催

6回開催

聞き取り調査・フィールドワーク

(対象者)
農業史 8件(10回) 18人
戦争体験・戦後体験 6件(8回) 5人
旧城下・商店街関係 4件(6回) 6人
その他 5件(5回) 5人
合計 23件(29回) 34人

出張調査

(調査先)
芦屋市立美術博物館、梅花学園資料室、東京都写真美術館、東京都小平市中央図書館、埼玉県入間市博物館
(調査先)
埼玉県八潮市立資料館、埼玉県草加市史編さん室

シンポジウムの開催

名称
歴史と文化を考えるシンポジウム-市民とともにつくる新「尼崎市史」-
日時
平成8年10月26日(土曜日)午後1時~5時30分
場所
アルカイックホール・オクト
主催
尼崎市
共催
阪神大震災対策歴史学会連絡会(歴史資料ネットワーク)
後援
兵庫県教育委員会、尼崎市教育委員会、神戸新聞社、神戸史学会、神戸女子大学史学会、神戸大学史学研究会
内容
講演 網野善彦氏
「地域史研究の現状と課題-長洲御厨〔ながすのみくりや〕等を中心に-」
パネルディスカッション
「今、求められる地域史、自治体史とは」
パネラー 山崎隆三氏、田辺眞人氏、大国正美氏、岩城卓二氏、寺井加奈子氏、司会・奥村弘氏
参加者
400名

シンポジウム準備企画 (『尼崎市史』を読む会・第3回番外編)

日時
平成8年9月28日(土曜日)午後2時~4時30分
場所
中央図書館セミナー室
参加者
山崎隆三氏、田中文英氏(いずれも史料館専門委員)、岩城卓二氏(新市史アドバイザー)、寺井加奈子氏(パネラー)ほか、計30名

シンポジウムおよび準備企画の内容詳細については、『地域史研究』第26巻第2号をご参照ください。

あまがさき歩み展への協力

あまがさき歩み展、ケースに展示されているのは史料館所蔵の昭和8年尼崎鳥瞰図原画

史料館は、市制80周年記念事業として前記の「歴史と文化を考えるシンポジウム」を開催し、新「尼崎市史」編集事業に着手したほか、市による記念事業の一環としての「あまがさき歩み展」に協力しました。
この「歩み展」は平成8年10月8日(火曜日)から14日(月曜日)まで中小企業センター・ホールにて開催されました。尼崎市の歩みをテーマにしたさまざまな企画が催されましたが、史料館はこのうち、歴史年表パネルの作成や、市民からの公募による秘蔵写真展示、史料の展示などに協力しました。

『尼崎市史』を読む会

第3年度目にはいった『尼崎市史』を読む会は、引き続き毎月第3木曜日の午後6時から7時30分、中央図書館セミナー室を会場に、月1回の例会を開催しました。平成8年4月の第15回例会から9年3月の第26回例会まで、12回の例会に延312名、1回平均26名の参加がありました。この間、第1巻の室町・南北朝期からスタートしたテキストは、7月の第18回で第1巻を終了、第19回と第20回の2回のゲストスピーカーの回をはさんで、10月の第21回例会から第2巻の近世にはいりました。毎回の解説を史料館職員が行なったほか、3回に1回の割合でボランティア講師をゲストスピーカーとしてお呼びし、その時代やテーマに関連した講義をしていただきました。

ゲストスピーカー
第16回(平成8年5月例会)
田中勇氏(尼崎市教委)「天文法華の乱と尼崎地域」
生澤英太郎氏(甲子園短大講師)「寺社本所領について」
第19回(平成8年8月例会)
「第1巻を振り返って」生澤英太郎氏、田辺眞人氏(園田女子大学短期大学部助教授)、橋爪康至氏(田能資料館館長)
第20回(平成8年9月例会)
横田冬彦氏(史料館専門委員)「近世の摂津国-非領国論をめぐって-」
第23回(平成8年12月例会)
佐藤公保〔きみやす〕氏(兵庫県埋蔵文化財発掘調査事務所復興調査班、愛知県からの派遣職員)「発掘成果からみた尼崎城本丸御殿」

また、平成8年6月には第5回、12月には第6回と、2回の世話人会を開いていただき、そこでの検討により番外編、見学会、第一巻分科会などが具体化されました。また今後の課題として、読む会による児童・生徒向け企画なども提案されました。見学会のボランティア運営の強化、古代・中世史を学ぶ自主グループとしての第一巻分科会開設など、世話人会を中心とした読む会の自主運営化を進めていただいており、史料館としても、今後もこの方向で読む会が発展していけばと考えています。

市史を読む会例会、ゲストスピーカーを務める横田冬彦氏(平成8年9月例会)

番外編

第3回 平成8年9月28日(土曜日)午後2時~5時
「歴史と文化を考えるシンポジウムに向けて」
参加者30名(詳細は新「尼崎市史」編集事業の項参照)

見学会 (企画・準備はいずれも世話人・松藤政治さん)

第3回
平成8年4月20日(土曜日)午前12時50分~午後4時30分 参加者40名(講師・田中勇氏)
JR尼崎~皇太神社・浄光寺~西川八幡神社~神崎~遊女塚~阪急園田
第4回
平成8年11月9日(土曜日)午前12時50分~午後5時 参加者12名
阪急塚口~塚口御坊跡~立花公民館~富松神社~富松城跡~磐長姫神社~大井戸古墳~阪急武庫之荘
第5回
平成9年3月22日(土曜日)午後1時~5時 参加者74名
阪急稲野~御願塚古墳~杜若寺~黄金塚(東洋リノリューム内)~有岡城跡~阪急伊丹

第一巻分科会

平成8年10月3日(木曜日)に第1回開催ののち、11月から毎月第1金曜日午後6時~8時、地域研究史料館にて開催。参加者延31名、各回8名前後。
尼崎市教委の田中勇氏をチューターとして、古代・中世の古文書解読を含めた勉強に取り組んでいます。詳しくは『地域史研究』掲載の石川道子氏による参加記をご参照ください。

古文書入門講座の実施、ならびに「楽しむ会」のスタート

地域研究史料館では、昭和50年(1975)の開館後の一時期、古文書解読講座を実施していましたが、その後は長らくこうした企画を実施していませんでした。
近年、市民の皆さんから古文書解読ガイダンスの要望が多く寄せられるようになっていました。古文書を専門的に扱う史料館としては、この要望を受けとめるべきであると考え、実施について検討してきました。その結果、ようやく今年度、古文書入門講座を開催し、引き続き古文書解読講座の自主グループ化という形で、この課題を実施に移すことができました。
まず、平成8年の7月から8月にかけて、入門講座を次のとおり実施しました。

尼崎市史・近世古文書入門講座

場所 中央図書館セミナー室
時間 いずれも午後1時30分~3時
参加方法 申込み制、参加料無料(資料代実費のみ徴収)

第1回 7月14日(日曜日) 参加者31名
講師 山崎隆三氏(史料館専門委員)
「古文書が開く江戸時代の世界」
(この講演内容については、『地域史研究』第26巻第1号参照)
野市勇喜雄氏(近世古文書研究家、ボランティア講師)
古文書解説「往来手形、人別送り・宗旨送り状」(1)
第2回 7月28日(日曜日) 参加者26名
講師 岩城卓二氏(新市史アドバイザー、大阪教育大学講師)
「利根川商人と上方(古文書解読による新たな研究テーマの発見)」
史料館・中村 史料館収蔵近世古文書の概要紹介
第3回 8月11日(日曜日) 参加者25名
講師 野市勇喜雄氏
古文書解説「往来手形、人別送り・宗旨送り状」(2)
史料館・中村 各地の古文書解読グループの活動例紹介
第4回 8月25日(日曜日) 参加者19名
講師 野市勇喜雄氏
古文書解説「往来手形、人別送り・宗旨送り状」(3)
史料館・中村 自主グループ結成のお誘い

史料館では当初から、入門講座参加者による解読講座の継続と自主グループ化を想定していました。また、参加者からも「古文書解読について身近に参加できる入門講座を待っていた」「解読だけでなく、古文書の歴史的背景がわかる講演などを聞けたのがよかった」といった感想が出され、講座の継続を希望する声も多く出されました。
そこで、講座参加者に対して自主グループ結成を呼びかけ、自主グループ「尼崎の近世古文書を楽しむ会」が実現することになりました。講師については、入門講座でもボランティア講師を務められた市内在住の近世古文書研究家、野市勇喜雄さんに引き受けていただきました。
こうして、平成8年10月25日から「尼崎の近世古文書を楽しむ会」がスタートしました。毎月第2・第4日曜の午後1時30分~3時30分、地域研究史料館会議室を会場に、毎回10名から14名が参加して、8年度中に計11回の例会が開催されました。平成9年度からは、新たに金曜コースも開設される予定です。
この「楽しむ会」の具体的な取り組み内容については、『地域史研究』掲載の今市保美〔いまいち・やすよし〕氏による参加記をご参照ください。

尼崎市震災記録編さんへの協力

阪神・淡路大震災に関する資料の保存が、さまざまな分野で重要な課題となっていること、なかでも行政文書・資料の保存を重視して取り組む必要があることについては、すでに『地域史研究』第25巻第3号掲載の小川千代子氏による報告「阪神・淡路大震災と記録の保存-行政文書・資料の場合-」でも指摘されています。この震災資料の保存と密接に関係する課題として、震災の記録を編さんするという事業があります。
震災発生以降、さまざまな個人や団体による震災記録が編さんされてきており、神戸市・箕面市・西宮市・大阪府といった自治体による震災記録も発行されています。
こうしたなか、尼崎市でも震災記録を編さんし、あわせて関連する文書・資料を保存する取り組みが進められています。この事業は、震災による被害と復旧・復興の過程を記録化し、史実を後世に伝えるとともに、今後の防災対策に役立てていくことを目的としており、行政の記録にとどめるのではなく、民間も含めた尼崎市全体の震災の記録をまとめていくことを意図しています。
この事業は、事務局を企画財政局企画課と(財)あまがさき未来協会におき、助役を委員長とする全庁的な震災記録編纂委員会を設けて実施しており、専門研究員の指導・助言を仰ぐとともに、地域研究史料館が協力することになっています。平成8年5月から事業を開始し、桃山学院大学経済学部教授の芝村篤樹氏が専門研究員に委嘱されました。編纂委員会は、分野別に3つの作業部会を設け、資料の収集調査と原稿作成にあたっています。編さんされる報告書は400~500頁程度、平成9年度中に刊行の予定です。
なお、この尼崎市の震災記録編さん事業の実施にあたっては、兵庫県の外郭団体として県の震災資料収集・保存と記録編さんにあたっている(財)21世紀ひょうご創造協会とも連携していくことになっています。平成8年10月13日(日曜日)に神戸大学文学部で開催された、21世紀ひょうご創造協会と歴史資料ネットワークの共催による第2回「震災記録の保存と編さんに関する研究会」では、あまがさき未来協会から尼崎市の記録編さんの取り組み状況が報告されました。

ボランティア団体等との連携

昨年度の事業報告でも紹介した、史料ネットをはじめとする震災関連のボランティア団体とは、平成8年度も引き続き連携協力に努めました。
震災後、被災した歴史資料の保全活動に取り組んだ歴史資料保全情報ネットワーク(阪神大震災対策歴史学会連絡会、略称史料ネット)は、震災への緊急対応から継続的活動へと力点を移し、平成8年度から歴史資料ネットワーク(略称は同じく史料ネット)へと改組しました。改組後も引き続き、被災史料の整理・保全にあたるほか、被災地の歴史と文化を考える連続市民講座の開催、被災地の埋蔵文化財や石造美術品などの保存問題、震災資料保存と記録編さんをはじめ、被災地各地で市民とともに地域の歴史を学び保存する取り組みを進めています。
こうした取り組みの一環である尼崎戦後史聞き取り研究会も、平成8年9月以来1~2か月に1度の割合で、地域研究史料館を会場に例会を開催してきています。同会については、『地域史研究』掲載の森下徹氏による紹介をご参照ください。また、市制80周年記念事業である「歴史と文化を考えるシンポジウム」を、この史料ネットとの共催により開催したことは、すでに新市史編集事業の項でふれたとおりです。
一方、震災直後に阪神・淡路大震災被災文化財等救援委員会を組織し、史料ネットとともに被災史料保全活動に取り組んだ文化庁は、震災の経験を今後の文化財保存事業にいかすべく、平成7年度・8年度に2か年にわたって科学研究「美術工芸品等の防災に関する調査研究」に取り組みました。この調査研究の一環として、研究分担者である奥村弘氏(神戸大学文学部助教授、史料ネット代表幹事)の指導のもと、西宮市行政資料室嘱託の豊田美香氏・福重綾子氏により、「阪神・淡路大震災における文書等所蔵施設被害調査アンケート」が実施され、その報告書がまとめられました。実地調査および聞き取りなどもまじえて、文書等所蔵施設の震災被害についてくわしく分析・報告されており、それをもとに文書等所蔵施設の防災対策について貴重な提言を行なっています。当館は、この調査についても、文化庁や全史料協との連絡調整にあたり、アンケート事務などの実務面で協力しました。この調査結果は、東京国立文化財研究所発行の科学研究調査報告書『美術工芸品の防災に関する調査研究』に収録される予定です。
また、震災資料の保存活動に取り組む、被災地および周辺の図書館・史料保存機関職員有志による「震災記録を残すライブラリアン・ネットワーク」や、震災記録情報センターとも、平成7年度に引き続き情報交換等の連携に努めました。