尼崎市立地域研究史料館

史料館について

平成11年度地域研究史料館事業報告『地域史研究』第30巻第1号(通巻第88号)掲載稿を一部修正

史料の収集・整理・公開

平成11年度も引き続き、尼崎地域の歴史に関連するさまざまな史料の収集・整理・公開に努めました。その結果、古文書・近現代文書類約8,500点、地域史誌等の刊行物約1,800冊をはじめ、多くの史料を新たに整理・公開し、利用に供することができるようになりました。史料館収蔵史料の概要については、以下のページをご覧ください。

地域研究史料館収蔵史料(平成12年3月末現在)

新たに公開した古文書・近現代文書類のうち、おもなものとしては、近世の書籍史料からなる内田頼重氏文書(岡本元興氏寄贈、78点)、写真資料や尼崎三曲協会関係史料からなる福岡節子氏文書(466点)、神崎村村役人・小田村村長家の文書である田中大庄次郎氏文書((1)~(3)、1,013点)などがあります。
これらのうち、内田頼重氏文書、福岡節子氏文書、田中大庄次郎氏文書(3)については、誌上レファレンスのコーナーで内容を紹介しました。
また、刊行物のうち66冊は、長く尼崎市に住まれ、県立高校教員として学校教育に携わってこられた故荒武紀子氏のご遺志を継ぐご遺族から、史料館に寄贈されたもので、荒武紀子氏文庫として、利用に供しています。
これら史料の利用相談(質問、調査へのレファレンス・サービス等)および、利用者による史料複写実績は以下のとおりです。

平成11年度利用相談
合計 来館 電話 その他
1,202件 767件 406件 29件
1,497人 1,059人 409人 29人
平成11年度史料複写
件数 枚数
504件 21,690枚

歴史的行政文書の取り扱い

史料の収集・整理のうち歴史的行政文書については、廃棄決定された年限保存文書のなかから歴史的価値を有すると史料館が判断した簿冊を従前から選別し、保存してきました。これらの簿冊については、今後、尼崎市における公文書館事業としての位置付けを明確化し、他自治体の事業規定等を参考にしながら、整理・公開の基準や方式を決定していく必要があります。
こういった将来の本格的事業実施に向けての準備作業として、平成11年度から、新たに次の二つのことを開始しました。

  1. 史料館で保存している歴史的行政文書の、公文書公開制度に準じた閲覧利用
    史料館で保存している歴史的行政文書は、将来的には独自の基準や方式を定めて、公文書館事業として利用に供していく方向で考えています。このことが実現するまでの間、原局による廃棄決定前の現用文書段階においては公文書公開(情報公開)の対象であった文書が、史料館側の規定未整備を理由に一律に非公開とすることは、市民の情報アクセス権の尊重ということから考えて、望ましいことではありません。
    そこで史料館では、保存している歴史的行政文書のうち簿冊目録が整備されたものについて、公文書公開制度に準じた形で市民の求めに応じて、閲覧利用に供していくこととしました。もちろんこの場合、保護すべき個人のプライバシーが記載されたものなど、公文書公開制度上公開できない文書については、非公開となります。
  2. 選別・保存行政文書の簿冊リストの原局への通知
    1.を実施していくためにも、保存年限が終了して廃棄決定された行政文書簿冊のうち、どの簿冊が廃棄されずに史料館によって選別・保存されているのか、その簿冊を作成した原局の側でも把握しておく必要が生じます。そこで平成11年度から、各年度ごとに史料館で選別・保存した簿冊のリストを、各原局に対して通知していくことを開始しました。過去に選別・保存した簿冊のリストも、順次さかのぼって作成し、通知していく予定です。

以上の二点について、庁内関係部局と協議のうえ全庁的に周知して、平成11年度から実施しています。すでに11年度中に、公文書公開制度に準じた形での歴史的行政文書閲覧申請が数件あり、実際に閲覧に供しています。
歴史的行政文書については、さきにふれた整理・公開規定の整備や、実際の整理・目録作成作業のための組織体制づくり、庁内行政文書・資料の網羅的把握と収集に向けた条件整備など、さまざまな課題を今後解決していく必要があります。今年度に着手した実績をふまえながら、今後も引き続きこういった諸課題の解決に向けて取り組んでいく予定です。

新「尼崎市史」編さん事業

平成10年度に引き続き、次の5人の専門委員を中心に、調査・編さんを進めました。

尼崎市立地域研究史料館専門委員
山崎隆三 大阪市立大学名誉教授、名城大学名誉教授、日本近世・近代史
田中文英 大阪女子大学名誉教授、仏教大学文学部教授、日本中世史
横田冬彦 京都橘女子大学教授、日本近世史
岩城卓二 大阪教育大学助教授、日本近世史
佐賀朝 桃山学院大学専任講師、日本近代・現代史

また、調査員12人を委嘱し、平成10年度に引き続いて各分野ごとの聞き取り調査、史料調査などを行ないました。
実施した会議および調査の概要は次のとおりです。

新尼崎市史編集委員会 1回
専門委員会議 4回
時代別ワーキング作業 8回
調査員研修会 2回
聞き取り調査 28件37回
内訳 農業史 14件14回
旧城下町 4件7回
商業 1件1回
建築・町並み 4件5回
公害 1件1回
震災 2件3回
その他 2件6回

これらのうち農業史については、義根益美調査員による園田島ノ内地区のまとめを、『地域史研究』第30巻第1号に掲載しています。
こういった調査を進めると同時に、全体的な年次計画の見直し、図説の内容・目次案の検討と一部原稿案作成、外部の研究者とも連携した研究プロジェクト化の推進などの検討を行ないました。
研究プロジェクト化の部分では、西摂地域近世史の基本的な調査研究について、西摂研究会という形で研究プロジェクト化がスタートしています。この西摂研究会は、平成11年10月に堺市で開催された地方史研究協議会第50回大会の準備研究会として、同年2月に開催したパネルディスカッション「西摂地域近世史研究の課題」を受けて、そこでの問題提起を引き続き議論する形で発足したものです。平成11年度中は研究会を2回開催しており、阪神地方の若手近世史研究者を中心に10数名が参加しています。パネルディスカッションおよび第1回西摂研究会で議論された内容については、『地域史研究』第29巻第2号の特集をご参照ください。

『尼崎市史』を読む会

平成6年以来開催してきている『尼崎市史』を読む会は、平成11年度には第2巻を終了し、いよいよ第3巻の近代に入って市史を読み進めているほか、従前に引き続き見学会等の企画を実施しました。

例会

引き続き、市立中央図書館セミナー室を会場に、毎月第3木曜日午後6時から7時30分まで開催しました。第51回から第62回まで12回開催し、参加者は延べ323人でした。テキストの『尼崎市史』は、第2巻第5章第7節から開始して8月には第2巻を終了、9月・10月の例会では2巻のまとめと3巻のガイダンスを行ない、11月から第3巻に入って、年度末までに第6章第1節の5までを読み進みました。
例会では、史料館職員が『尼崎市史』の解説を行なったほか、ほぼ3回に1回の割合でゲストスピーカーを招いて、例会で学んでいる時代やテーマに関連した講演をいただきました。ゲストスピーカーの方々には、全員ボランティアとしてご協力いただきました。

ゲストスピーカー
第51回(平成11年4月例会)
石川道子氏(伊丹市立博物館調査員)
「尼崎の通運業-尼崎城下の飛脚仲間から尼崎陸運組合へ-」
第54回(平成11年7月例会)
小村克己氏(大阪歴史懇話会会員、家系研究協議会会員)
「中世から近世初頭における摂津地域の国人領主層の系譜と動向」
第56回(平成11年9月例会)
大国正美氏(神戸深江生活文化史料館副館長)
「『尼崎市史』第二巻を概観して」
第57回(平成11年10月例会)
山崎隆三氏(尼崎市立地域研究史料館専門委員)
「『尼崎市史』第三巻の執筆をかえりみて」
第60回(平成12年1月例会)
寺田匡宏氏(大阪大学大学院、新「尼崎市史」調査員)
「近世民衆の見た災害と復興-「慶応元年 武庫川切れ洪水記録」をめぐって-」

見学会

平成11年度も、世話人会のメンバーが中心となって見学会を企画立案し、実施していただきました。

第12回
平成11年5月8日(土)午後0時50分~4時 参加者28人
阪急塚口~上坂部~伊佐具神社~広済寺(近松門左衛門墓)~近松公園~伊居太神社~小田公民館
小田公民館では、地元の近松応援団および猪名荘遺跡を学ぶ会の皆さんと交流しました。
第13回
平成11年11月13日(土)午後0時30分~4時 参加者25人
JR立花~水堂代官屋敷跡~常春寺(水堂宝篋印塔)~水堂須佐男神社~(かぶと山道)~守部素盞嗚神社(守部十三重石塔)~西武庫須佐男神社(西武庫十三重石塔)~磐長姫神社~大井戸古墳
第14回
平成12年3月11日(土)午後1時~5時 参加者50人
富松神社~富松豆保存研究共同畑~富松城跡~西運寺~真光寺~円受寺~大昌寺
地元で地域おこしに取り組む「富松21」の皆さんのご協力により実施しました。

夏休み・城跡地見学企画

『尼崎市史』を読む会世話人会による夏休み企画として、平成9年度から始まった児童・生徒向けの城跡地見学企画を、平成11年度も実施しました。

尼崎城跡地見学会
平成11年8月7日(土) 午後2時~5時 参加者40人 於市立中央図書館セミナー室
説明 樋爪修氏(大津市歴史博物館学芸員)・青手木正氏・下中俊明氏(関西城郭研究会)

第一巻分科会

引き続き毎月第1金曜日午後6時~8時、市史を読む会の第一巻分科会を地域研究史料館にて開催しました。日本中世史の専門家・田中勇氏をチューターとして11回開催し、参加者は延べ80人でした。テキストは、稲葉伸道「神人・寄人」(『岩波講座・日本通史』中世1)と網野善彦『日本社会の歴史』中(岩波新書)の第7章第4節「一三世紀の社会と文化」を使用。参加者が交代で報告した後、尼崎の中世史に関わる点を中心に質疑・意見交換をしました。

その他

平成11年度中、「『尼崎市史』を読む会ニュース」を第39号から第44号まで6号発行しました。また世話人会を第13回から第15回まで3回開催し、例会や見学会等の企画立案や内容設定について、協議していただきました。
また、世話人会有志が中心となって実現した、実行委員会形式の戦争史跡見学・講演会「火垂るの墓を歩く」が8月8日(日)に開催され、甲陽園周辺の戦争史跡を歩きました。定員50人のところに百人以上の申し込みがあるという盛況で、実行委員会では毎年夏の企画として継続したいということです。

尼崎の近世古文書を楽しむ会

同会は、地域研究史料館が保存・公開する尼崎関係の近世古文書をテキストにして、近世のくずし字の読解に習熟することと、地域の近世史に親しむことを目的としています。会は、平成8年度に史料館が開催した近世古文書入門講座の参加者を中心に出発し、参加者が自主的に運営しています。史料館は、テキストの選定・内容解説等の援助・協力を行ない、例会の指導には、市内在住の近世古文書研究家・野市勇喜雄さんに、ボランティアの講師として当初からご協力いただいています。
例会会場の史料館会議室がせまく、一回の参加者は12、3人に限られますが、例会中にも史料館の参考書籍を利用したり、随時館員へ質問することなどもでき、喜ばれています。毎回満席に近い状態ですが、少人数なだけに指導が行き届き、相当の経験者とともに初心者の方も一緒に読解を進めています。
平成11年度は、月曜日と金曜日の例会を前年度と同様に開きました。

日曜コース 第2・第4日曜 22回開催 延206人
金曜コース 第2・第4金曜 19回開催 延194人
合計 41回開催 延400人

平成11年度のテキストとしては、時友村古田嘉章〔よしあき〕氏文書(史料館寄託)のうちの「諸事留め控え帳」と友行村岡治茂夫氏文書(史料館所蔵)のうちの「御触状の写し」を、また、講師から提供されたコピー史料を原紙とした「諸家仕置き窺い留め」を利用しました。
「諸事留め控え帳」「御触状の写し」は、江戸幕府・大坂町奉行所や尼崎藩・大庄屋から村々に回達された触書・回状、村から藩や大坂町奉行所などに提出した願書等を記録した帳面です。当年度に解読したのは、日曜コースでは「諸事留め控え帳」の文久4年(1864)の部分、「御触状の写し」の文政3年(1820)から同4年と、同11年の部分、金曜コースは、「諸事留め控え帳」の安政3年(1856)から文久4年(1864)の部分でした。解読文は、日曜コースで解読した時期のものが新たに作成されました。
「諸家仕置き窺い留め」は、全国諸藩で生じた犯罪に関して、犯罪者の処遇や量刑について各藩の江戸留守居役から幕府要人に照会した文書とそれへの回答を記録した古文書です。内容は尼崎地域とは関係ないのですが、幕府の役人が作成した記録なのでしょう、文字が正確に記されているので、文字読解の手本テキストとして利用しました。
楽しむ会で作成した解読文は、新「尼崎市史」への活用をはじめ、今後の調査研究に活かしていく予定です。

尼崎戦後史聞き取り研究会

尼崎および阪神地域の戦後史や、聞き取り調査の方法論などに関心のあるメンバーからなる尼崎戦後史聞き取り研究会は、史料館を会場に、ほぼ月1回の例会を開催したほか、平成11年度は市民の参加を募った見学会や、あまがさき未来協会との共催企画なども実施しました。
研究会の会員は20数人で、歴史学や地理学、社会学、民俗学などの研究者、大学院生、史料保存機関や団体史編さん担当者、現代史に関心を持つ市民など多様です。各回の例会には10人前後が集まり、尼崎市民の戦後生活史や、建築、公害などさまざまなテーマを取りあげました。ときには、戦前の農民運動史や他地域の民俗にまで対象を広げたり、女性史・自分史をテーマにした議論なども行ないました。
例会以外の企画としては、まず平成11年11月28日(日)に、広く一般の参加を募った尼崎市内近代建築ウォッチングを実施しました。20数人の参加を得て好評だったこの企画の内容については、『地域史研究』第29巻第3号掲載の西村豪氏による参加記をご覧ください。
また、研究会の有志が(財)あまがさき未来協会の調査研究事業に協力する形で、「写真と聞き取りでたどる尼崎の都市イメージ」と題する共同研究に取り組みました。その成果は、平成12年1月26日(水)にあまがさき未来協会と共催した研究会「尼崎の都市イメージを探る」で発表し、さらに『あまがさき未来協会 平成11年度研究報告書』(平成12年7月)に「尼崎の都市イメージ-日常的風景のもたらすもの-」と題して掲載されました。

市民団体、歴史学会等との連携・協力

平成11年度も引き続き、市民や地域団体、市役所内各部局や学校、あるいは他市の機関などからの依頼に応じて、歴史や史料保存に関する講座等の企画への講師派遣や講師紹介を行ないました。また、他機関との連携による調査研究的な取り組みにもいくつか参加しました。そのおもなものをご紹介します。
平成11年10月30日(土)、まちづくり歴史文化交流事業に取り組む、尼崎市内のNPO法人シンフォニー主催の講演と交流の夕べ「まちを探検する、まちを発見する!!」に、史料館嘱託の河島裕子、坂江愛、松迫寿代が講師として参加しました。園田学園女子大学で開催されたこの講演会は、市民の立場から歴史・文化を活かしたまちづくりを考えるユニークなもので、参加者は約80人でした。なお、もう一人の講演者である井上眞理子さんや、コーディネーター役の田辺眞人さん(園田学園女子大学教授)など、他の講師陣もいずれも史料館への協力者で、パネルディスカッションの場でも史料館や新「尼崎市史」事業に関する話題が多く出されました。
くわしい内容については、『地域史研究』第29巻第3号掲載の島原典子さんによる参加記をご覧ください。
平成12年1月22日(土)には、兵庫県中央労働センターにおいて開催された、全国歴史資料保存利用機関連絡協議会近畿部会・防災委員会主催のアーカイブセミナー「阪神・淡路大震災から五年、災害と記録史料を考える」において、被災自治体からの基調報告として当史料館の白石健二が「阪神・淡路大震災と資料保存-尼崎市立地域研究史料館の活動と課題-」と題する報告を行ないました。各地の史料保存事業関係者など約80人が参加しました。
以上のほか、立花公民館の市民企画講座委員会への出講、市内学校の総合学習の生徒受け入れ、JA小田支店の歴史講座への出講、女性センタートレピエの女性史講座への講師紹介、西宮市生涯学習大学宮水学園および芦屋市立美術博物館古文書講座への出講などを行ないました。また、阪神・淡路大震災関連では、震災資料の収集・整理を行なう(財)阪神・淡路大震災記念協会からの依頼に応じて資料公開基準検討部会に職員を派遣し、調査検討に協力しています。また、震災被災史料保全活動をはじめ、歴史を学び保存する地域での取り組みへの支援を続けるボランティア団体・史料ネット(阪神大震災対策歴史学会連絡会・歴史資料ネットワーク)とは、従前に引き続きさまざまな分野での連携・協力関係を継続しています。