尼崎市立地域研究史料館

史料館について

平成12年度地域研究史料館事業報告『地域史研究』第31巻第1号(通巻第91号)掲載稿を一部修正

史料の収集・整理・公開

平成12年度も引き続き、尼崎地域の歴史に関する史料の収集・整理・公開に努めました。その結果、古文書・近現代文書類約3,300点、地方史誌等の刊行物約1,900冊をはじめ、多くの史料を新たに整理・公開し、利用に供することができるようになりました。史料館収蔵史料の概要については、以下のページをご覧ください。

地域研究史料館収蔵史料(平成13年3月末現在)

新たに公開した古文書・近現代文書類のうち、おもなものとしては、酒造関係をはじめとする、近世・近代の水堂村の文書である川端正和氏文書(2)(2,356点)、旗本佐藤氏知行所・西武庫村の庄屋文書である高寺秀典氏文書(1,003点)などがあります。このうち、川端正和氏文書(2)については、『地域史研究』第30巻第2号の誌上レファレンスのコーナーで、概要を紹介しました。
これら史料の利用相談(質問、調査へのレファレンス・サービス等)および、利用者による史料複写実績は以下のとおりです。

平成12年度利用相談
合計 来館 電話 その他
1,241件 829件 374件 38件
1,598人 1,185人 375人 38人
平成12年度史料複写
件数 枚数
495件 22,811枚

ボランティア

史料館では以前から、『尼崎市史』を読む会をはじめとするさまざまな場を通して、利用者、市民の皆さんからのボランティア協力のもとに、事業を進めることを重視してきています。従来、ボランティアの皆さんに協力していただいてきたのは、主として講座や見学会等の企画立案と実施、あるいは、史料調査や新市史の聞き取り調査などに際しての参加・協力でした。
こういった面でのボランティアに加えて、史料館の基本業務である史料整理・公開の部分でも、市民の皆さんの協力をお願いできないだろうかということで、平成11年度には市内のNPO法人団体が主催する歴史講座に史料館職員が出講し、その場で史料整理ボランティアを募るといったことも行なってきました。
こうした史料館からの働きかけを受けて、平成12年度には、合計3人の方による史料整理ボランティアが実現しました。いずれも、先のNPO法人主催の講座に参加された方、あるいは市史を読む会や尼崎の近世古文書を楽しむ会に参加されている方々で、こういった場で学んだことを活かして、史料館所蔵の古文書や写真史料などの整理に取り組んでいただきました。
史料整理のボランティアをお願いするというのは、史料館にとっても初めてのことで、とまどいや試行錯誤もありましたが、ボランティアの皆さんも熱心に取り組んでいただき、徐々に仕事に慣れ、具体的な成果をあげていただくことができました。
この経過を踏まえて、史料館としてもあらためてボランティアの皆さんの感想や意見をおうかがいして、今後の事業に役立てていこうということで、平成13年3月25日には座談会を開催しました。『地域史研究』第31巻第2号で、この座談会の記録を掲載し、あわせてボランティアの皆さんによる史料整理の成果も、一部紹介できればと考えています。

新「尼崎市史」編さん事業

平成11年度に引き続き、次の5人の専門委員を中心に、調査・編さんを進めました。

尼崎市立地域研究史料館専門委員
山崎隆三 大阪市立大学名誉教授、名城大学名誉教授、日本近世・近代史
田中文英 大阪女子大学名誉教授、仏教大学文学部教授、日本中世史
横田冬彦 京都橘女子大学教授、日本近世史
岩城卓二 大阪教育大学助教授、日本近世史
佐賀朝 桃山学院大学専任講師、日本近代・現代史

また、調査員11人を委嘱し、平成11年度に引き続いて各分野ごとの聞き取り調査、史料調査などを行ないました。
実施した会議および調査の概要は次のとおりです。

新尼崎市史編集委員会 1回
専門委員会議 5回
時代別ワーキング作業 9回
近現代委員・調査員会議 1回
聞き取り調査・史料調査 34件37回
内訳 農業史 13件13回
旧城下町 6件6回
政治史 3件5回
産業・労働 3件4回
建築・町並み 1件1回
震災 3件3回
その他 5件5回

こういった調査を進めながら、専門委員会議、時代別ワーキング作業を通して、新市史のなかでも最初に刊行する予定の『図説 尼崎の歴史』の内容・目次案検討および、一部原稿案作成などの作業を進めました。この結果、当初刊行計画を見直し、図説を前倒しして平成16年度に刊行する方向で準備を進めていくことが、専門委員会議および編集委員会の場で確認されました。
このほか、史料館内外の幅広い調査研究の成果を新市史に活かしていこうと、西摂研究会、尼崎戦後史聞き取り研究会、尼崎の近世古文書を楽しむ会などとの連携も、引き続き重視しています。これらの具体的な取り組みについては、それぞれの項目であらためて紹介したいと思います。

『尼崎市史』を読む会

平成6年以来開催してきている『尼崎市史』を読む会は、昨年度に引き続き、第3巻近代編をテキストに読み進めました。また、世話人会を中心に、見学会等の企画も従前どおり実施しました。

例会

引き続き、市立中央図書館セミナー室を会場に、毎月第3木曜日午後6時から7時30分まで開催しました。第63回から第74回まで12回開催し、参加者は延べ296人でした。テキストの『尼崎市史』は、第3巻第6章第1節の5から開始して、年度末までに第2節の3まで進みました。
例会では、史料館職員が『尼崎市史』の解説を行なったほか、ほぼ3回に1回の割合でゲストスピーカーを招いて、例会で学んでいる時代やテーマに関連した講演をいただきました。ゲストスピーカーの方々には、全員ボランティアとしてご協力いただきました。

ゲストスピーカー
第63回(平成12年4月例会)
青手木正氏(市史を読む会世話人)
白石健二(史料館職員)
「川辺馬車鉄道から阪鶴鉄道へ」
第66回(平成12年7月例会)
末方鐵郎氏(元杭瀬小学校・塚口小学校校長)
「明治期の義務教育の確立」
第69回(平成12年10月例会)
宮崎博司氏(関西郵趣連盟理事)
「明治期の郵便制度について」
第73回(平成13年2月例会)
石川道子氏(市史を読む会世話人)
「お陰参りとええじゃないか」

見学会

平成12年度も、世話人会のメンバーが中心となって見学会を企画立案し、実施していただきました。第15回見学会は、当初は平成12年5月に予定していましたが、雨天により11月に延期して実施しました。

第15回
平成12年11月11日(土)午後0時50分~4時30分 参加者15人
企画・案内 松藤政治さん
阪急塚口~生島神社~立花村役場跡~尾浜八幡神社(伝名月姫墓)~山下はかり資料館~アウクスブルグ市提携記念碑
第16回
平成13年3月24日(土)午後0時30分~4時 参加者20人
ユニチカ記念館の見学
説明 青山勲さん(同記念館)、松井美枝さん(大阪市立大学大学院、新市史調査員)、川島智生さん(建築史)

夏休み・城跡地見学企画

市史を読む会世話人会による夏休み企画として、平成9年度から始まった児童・生徒向けの尼崎城跡地見学企画を、平成12年度も実施しました。

平成12年8月26日(土) 午後2時~4時30分 参加者28人

まず、市立中央図書館セミナー室において、ボランティアの青手木正さん、下中俊明さん(ともに関西城郭研究会会員、市史を読む会世話人)から、資料とスライドを使って尼崎城について説明していただきました。続いて、桜井神社、城内小学校、城内中学校と、城跡地を見学しました。

第一巻分科会

昨年度に引き続き毎月第1金曜日午後6時~8時、市史を読む会の第一巻分科会を地域研究史料館にて開催しました。日本中世史の専門家・田中勇氏をチューターとして11回開催し、参加者は延べ66人でした。テキストは、網野善彦『日本社会の歴史』中(岩波新書)の第7章第4節「一三世紀の社会と文化」を使用。「網野史学」と言われる歴史のとらえ方と中世史学の通説とを比較しながら、尼崎の中世史に関わる点などについて質疑・意見交換を行ないました。

その他

平成12年度中、「『尼崎市史』を読む会ニュース」を第45号から第50号まで6号発行しました。また世話人会を第16回と第17回、計2回開催し、例会や見学会等の企画立案や内容設定について、協議していただきました。
一方、世話人会有志が中心となって、平成11年度から始めた関連企画、実行委員会形式の戦争史跡見学・講演会「火垂るの墓を歩く」が、平成12年は8月9日(水)に開催されました。夙川・香枦園浜にコースを設定した今回の催しは、第1回と同様、定員50人をはるかに上回る申し込みが殺到するという盛況ぶりでした。今後も継続して毎年開催の予定ということです。

尼崎の近世古文書を楽しむ会

同会は、地域研究史料館が保存・公開する尼崎関係の近世古文書をテキストにして、会員が近世のくずし字の読解に習熟することと、地域の近世史に親しむことを目的としています。同会は、平成8年度に史料館が開催した近世古文書入門講座の参加者を中心に出発し、参加者が自主的に運営しています。史料館は、テキストの選定・内容解説等の援助・協力を行ない、例会の指導には、市内在住の近世古文書研究家・野市勇喜雄さんに、ボランティアの講師として当初からご協力いただいています。
例会会場の史料館会議室がせまく、1回の参加者は12、3人に限られますが、例会中にも史料館の参考書籍を利用したり、その時々に館員へ質問することなどもでき、喜ばれています。少人数なので会員相互の意見交換も活発で、相当の経験者とともに、初心者の方も一緒に読解を進めています。
平成12年度は、日曜日と金曜日の例会を前年度と同様に開きました。時間は両コースとも午後1時半から3時半までです。

日曜コース 第2・第4日曜 19回開催 延214人
金曜コース 第2・第4金曜 19回開催 延234人
合計 38回開催 延448人

平成12年度も、両コースで同じ史料をテキストとしました。講師から提供された「諸家仕置き窺い留め」を昨年度に引き続いて解読し、その後、法界寺村高木新太郎氏文書(史料館寄託)のうち、年貢の賦課徴収関係文書の解読に移りました。また、神戸市の井上好太郎氏文書(史料館撮影収集史料)のうちの一点「土方請負人取締りのため冥加役勤めたく願人連印帳」を読みました。
「諸家仕置き窺い留め」は、全国諸藩で生じた犯罪に関して、犯罪者の処遇や量刑について各藩の江戸留守居役から幕府要人に照会した文書と、それへの回答を記録した古文書です。内容には尼崎地域に直接かかわる事件はないのですが、幕府の役人が作成した記録なのでしょう、文字が正確に記されているので、文字読解の手本テキストとして利用しました。
「高木新太郎氏文書」の解読は、法界寺村を例として、江戸時代の農村における一年間の年貢の賦課・徴収サイクルを、具体的な手続きの上から見てみようというものでした。ほとんどの文書が、村内用に農民自身によって作成された事務書類なので、書き癖や文字の不揃いに悩まされながらの解読でした。
解読成果は、野市講師によってワープロ入力されており、新「尼崎市史」への活用をはじめ、今後の調査研究に活かしていく予定です。
井上氏文書をテキストに選んだのには、少々事情がありました。
千葉県の銚子市に、明治維新期のお雇外国人ブラントンの顕彰活動をしているブラントン会という団体があります。イギリス人技師のブラントンは、犬吠埼灯台をはじめ、日本各地で29基の灯台を建設したのだそうですが、その下で現場監督として、困難な工事に従事した中澤孝政という人が、元尼崎藩士だったのです。井上氏の文書は、尼崎藩時代に黒鍬棟梁取締り方を勤めていた中澤が、藩の上司に提出した書類の写しです。銚子市では、ブラントンを顕彰するにあたって中澤関係の史料を収集しておられ、当館から井上氏文書のコピーをお送りしたのですが、近世文書を解読する人がいないということで、尼崎の「古文書を楽しむ会」に解読依頼があったものです。

西摂研究会

本研究会は、まとまった藩政史料のない畿内地方の「非領国」研究を進めることを目的として、西摂地域の近世史に関心を持つ研究者の皆さんが、各人の研究成果や史料情報を共有するために結成されました。平成11年12月に第1回研究会を開いて以来、史料館などを会場にして、2~3か月に一度のペースで研究会が開催されています。
第1回の内容は、横田冬彦氏の「畿内近国『非領国』研究の課題」(後に『地域史研究』第29巻第2号に「『非領国』における譜代大名」として掲載)、第2回は岩城卓二氏の「幕末維新期における尼崎藩」でした。平成12年度は研究会が3回開催され、次のとおりの報告が行なわれました。

第3回(平成12年6月10日)
清水高志氏(大阪教育大学大学院日本史専攻)
「奉公人雇用からみる天保期-山崎隆三氏の仕事をめぐって-」
第4回(平成12年9月30日、
兵庫津研究会との合同会)
喜多宏高氏(明誠学院高等学校教員)
「近世兵庫津に関する絵画資料の紹介-歴史地理学的視点から-」
河野未央氏(神戸大学大学院)
「近世期兵庫津の都市構造-町役人をめぐる問題を中心に-」
黒田恭正氏(神戸市教育委員会)
「近世兵庫津の発掘調査-第20次調査の概要-」
第5回(平成13年1月13日)
中子裕子(当館嘱託職員)
「近世中期西摂地域における前句付文化」

同会は、今後もこういった研究交流や、共同調査などに取り組んでいく予定です。史料館としても、こういった研究の場で新たな西摂研究の成果が生まれ、それが新「尼崎市史」などへも活かされていくことを、期待しているところです。

尼崎戦後史聞き取り研究会

尼崎や阪神地域の戦後史・現代史、聞き取り調査の方法論などをテーマとして、平成8年にスタートした尼崎戦後史聞き取り研究会は、平成12年度も引き続き、史料館を会場に月1回の例会を開催しました。
研究会の会員(案内を送っているメンバー)は30人以上で、歴史学や地理学、社会学などの研究者、大学院生、史料保存機関や団体史編さん担当者、現代史に関心を持つ市民など多様です。このうち十数人が、毎月の例会に参加しています。
平成12年度の例会では、産業史、労働史、建築史や都市開発の歴史、古文書からの街並み復元の取り組み、聞き取り調査と記録の方法など、さまざまな話題を取りあげました。
また、あまがさき未来協会を事務局として、尼崎市が21世紀に伝える100の地域遺産を市民公募で選ぶミレニアムイベント(平成12年11月開催)においては、戦後史聞き取り研究会のメンバー数人が、遺産を選定するあまがさき探検隊メンバーに加わり協力しました。さらに、イベント会場における「昔と今の尼崎写真展」開催にあたっては、事務局のあまがさき未来協会からの委嘱を受けて、戦後史聞き取り研究会として写真選定と解説を行ないました。その具体的成果については、『地域史研究』第30巻第2号掲載の「ミレニアムイベント 昔と今の尼崎写真展」をご覧下さい。

市民団体、行政機関、歴史学会等との連携・協力

市民、地域団体からの要請による出講
JA兵庫六甲小田支店、尼崎青年会議所、尼崎文化協会、伊丹歴史探訪(伊丹市文化財保存協会ほか)、大阪歴史懇話会、ふるさとを知る会(市政出前講座)、ロータリークラブ
尼崎市役所・他行政機関への出講
尼崎市新任職員研修、大庄支所・武庫支所パワーアップ事業、公民館講座、本庁生涯学習フェア、ミレニアムイベント、西宮市生涯学習大学宮水学園
学校教育関係
小園中学校ほか数校より総合的学習受け入れ、園田東中学校へ出講、教育総合センター社会科教育研修講座出講、日本史教育研究会へ出講

このほか、8月3日には、台湾震災文化財・史料修覆保存等視察団約20人を受け入れ、史料館のある尼崎市総合文化センター会議室において、震災後の被災史料保全活動等についての説明を行ないました。同視察団は、阪神・淡路大震災の被災地を訪れることで、それぞれの地域での被災史料・文化財保全の取り組みについて学び、経験交流を深めようという趣旨で来日されたものです。視察団は同じ日に、市内の寺町や築地地区も視察しました。
さらに、この8月の視察団受け入れを受けて、12月19日から21日にかけて、台湾の国立雲林科技大学において開催された「台湾中部震災一周年、文化資産保護の回顧と展望、国際研究会」に史料館・白石が招かれ、個人の立場で参加して「阪神・淡路大震災と歴史資料の保存」と題する報告を行ないました。
以上に加えて、阪神・淡路大震災に関する資料の収集・整理を行なう(財)阪神・淡路大震災記念協会の、資料公開基準検討部会への職員派遣も継続しています。また、震災被災史料保全活動をはじめ、歴史を学び保全する地域での取り組みへの支援を続けるボランティア団体・史料ネット(阪神大震災対策歴史学会連絡会・歴史資料ネットワーク)とは、従前に引き続きさまざまな分野での連携・協力関係を継続しています。