猪名県

いなのあがた
出典: Web版尼崎地域史事典『apedia』

  「日本書紀」の仁徳天皇38年7月条に、猪名県の佐伯部が天皇の御膳にと1頭の鹿を献上したことがみえる。県は、一種の地方官である県主に任ぜられた豪族の支配領域で、35世紀ころに成立したと考えられる。摂津では三嶋県と猪名県が知られるが、三嶋県を支配した三嶋県主が史料に多くみられるのに対して、猪名県主については全く史料が残されていない。「延喜式神名帳」には、摂津国豊島〔てしま〕郡に為奈都比古〔いなつひこ〕神社2座が記されているが、地名のイナに原始的な姓〔かばね〕であるヒコをつけた神名からみて、もとは猪名県主をまつる県主神社であったと推測される。猪名県の所在地はのちの河辺郡為奈郷を主体とし、猪名川に沿って豊島郡にまでおよんでいたと思われる。天皇に鹿を献じた仁徳紀の説話は、猪名県主の職掌が狩贄〔かりにえ〕の貢献にあったことを示唆しているようである。

執筆者: 長山泰孝

参考文献

  • 高橋明裕「古代の猪名地方における猪名部と猪名県」『地域史研究』第29巻第3号 2000
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